本年度も引き続き、一般論が展開できないような悪い条件を持った確率微分方程式の解の挙動についての研究を行った。特に今年度の研究では、確率微分方程式の解が細いチューブから成る空間に押し込まれている状態を考え、チューブを細くしていくことで解の極限がグラフ上を動く確率過程となる場合に、その極限の確率過程の特徴付けを行った。この話題は、血管や神経の成す回路といった細い管から成るものの中を粒子が動くときに、そういった現象をグラフ上の偏微分方程式による数学モデルで記述するのが適切であるかを議論するものである。本研究では大きなポテンシャルによって拡散過程をチューブから成る多様体内に押し込め、このポテンシャルによりグラフに縮ませた場合の議論を主に行っている。チューブの縁に反射壁を置き、この反射によってチューブの内部に押し込まれる場合にもこの議論は通用する。このような問題を考えたとき、グラフのような、リーマン多様体では無い、退化した空間を動く確率過程を考えなくてはいけないという困難が現れ、標準的な議論が通用しない。しかし、グラフの辺の部分は一次元多様体であることに注目し、一次元拡散過程の理論を繰り返し使うことによって、チューブから成る多様体の内部を動く拡散過程がグラフ上の拡散過程に収束することを示し、さらにその極限の過程がグラフ上の偏微分方程式で特徴づけられることを示した。この偏微分方程式ではグラフの頂点の部分を境界として扱っているのであるが、その境界条件は重み付きキルヒホッフ条件という形で得られた。これは、細い管から成るものの中での粒子の挙動をグラフ上の偏微分方程式として扱う場合、頂点部分では重み付きキルヒホッフ条件をおくのが自然であるということを示している。この結果は論文としてまとめ、論文雑誌掲載が決まった。
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