研究目的:本研究課題では、薬剤担体を目指した多機能集積型メソポーラスシリカナノ粒子の創製を目標としている。本研究課題において、薬剤担体であるメソポーラスナノ粒子の生体に対する安全性は重要であるため、本年度はメソポーラスナノ粒子の安全性の調査およびその向上を試みた。 ナノ材料の生体への安全性に関する指標として、血液適合性がある。その中でも、赤血球に対する溶血特性の調査は重要である。従来より、生理的条件下で負に帯電するシリカは赤血球に対し高い溶血特性を有することが知られていた。近年、シリカにメソ孔を導入することで、粒子表面の溶血の原因となるシラノール基密度が低下し、赤血球の溶血が低減することが近年報告されている。しかしながら、骨格がシリカであるため、粒子濃度が高濃度の場合には溶血を引き起こすことが知られており、さらに安全なメソポーラスナノ粒子の創製が望まれている。 研究結果:本研究員は、昨年度合成に成功した、エテニレン架橋(-Si-C2H2-Si-)型シルセスキオキサン骨格を有するメソポーラスナノ粒子(CMP-SQ)が、メソポーラスシリカナノ粒子(CMP-Si)と比較して、赤血球の溶血を抑制することを見出した。エテニレン基は酸素と比較して電子供与性が強く、そのためCMP-SQ由来のシラノールは電離が抑制され、赤血球の細胞膜最表面との静電的相互作用が低減し、赤血球の溶血が抑制されたと考えられる。さらに、エテニレン架橋以外にも、メチレン(-Si-CH2-Si-)、エチレン(-si-C2H4-Si-)、エチニレン(-Si-C2-Si-)等の骨格組成を有するメソポーラスナノ粒子の合成にも世界に先駆けて成功した。今後、これらの骨格組成の材料-生体接着界面への影響を詳細に調査し、高い生体親和性を有する材料表面設計の基礎を築くとともに、これらの架橋部位の反応性を利用して、更なる官能化を試み、多機能集積型メソポーラスシリカナノ粒子の創製の実現を目指す。
|