本研究の目的は、長崎市軍艦島の事例研究を中心として、文化遺産を地域社会の生活環境を維持するために積極的に活用していくなかで、その価値をめぐる開かれた議論の可能性を探求することである。軍艦島をめぐっては、世界遺産化や観光利用などに関して、いかなる立場から、いかなる価値づけがなされているのかを、背景にある地域社会の現状や記憶や歴史、地域・団体間の利害関係とともに把握していかなければならない。 本年度は、長崎市内を中心としたフィールドワークを行ない、軍艦島の世界遺産登録を目指すNPO団体や、近隣地域の商工会、長崎市役所などへの聞き取りを行なった。また、比較参照軸を明確にするために、福岡県の大牟田や田川、北海道の夕張などの旧産炭地においても、民俗資料館などで資料収集や関係者への聞き取りやシンポジウムへの参加を行ない、産業遺産り保存・活用と意味づけなどについての現状把握を行なった。 これらの成果をもとに日本社会学会で報告を行ない、それをきっかけに研究関心の近い研究者との交流ができ、研究会の参加や立ち上げにつながった。また、以上の研究成果は社会学の学術雑誌への投稿論文としてまとめられ、現在査読中(部分的な修正で掲載可)である。 さらに本年度は、これらの調査研究と並行して、博士論文の執筆に向けた基礎理論の学習(文献研究)、および炭鉱社会で生きた人々への生活史の聞き取りと収集も開始した。ここで得られた成果は、本研究の意義や成果を補強するものとなるはずである。
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