リチウムイオン伝導固体の中でも優れた特性を示す(Li2S)x(P2S5)100-x系について、中性子およびX線の回折・散乱実験によってリチウムの存在する環境を明らかすること、そして本系に発現した非常に優れたリチウムイオン伝導メカニズムを解明することが本研究の目的である。平成20年度に取得した中性子およびX線の回折・散乱データを用い、ガラス構造に関してはリバースモンテカルロシミュレーションによる3次元構造モデルの構築を、結晶構造に関してはリートベルト解析による結晶構造解析を行った。最も伝導度の優れたLi7P3S11非平衡結晶を析出する(Li2S)70(P2S5)30組成のガラスについて構築された3次元構造モデルにおいては、リチウムイオンは4個の硫黄原子に囲まれてLiS4四面体を形成しており、さらにそれらが集合したリチウムが豊富な領域ができていることが明らかになった。一方、Li7P3S11非平衡結晶の結晶構造解析の結果からも、リチウムイオンは4個の硫黄原子に囲まれた結晶サイトに存在していることが示唆された。したがって、ガラス状態で形成されたリチウムイオンの局所構造が非平衡結晶になっても維持されていることが明らかになった。また、リチウムイオンが規則的な結晶サイトに置かれることで、リチウムイオンは高い規則性を持って結晶構造中に分布している。このことから、ガラス構造において形成されたLiS4四面体が結晶化を経ても維持されており、さらにそのような局所構造を持ったリチウムイオンが規則的に分布することで、非平衡結晶はガラスよりも一桁高いイオン伝導性を発現しているものと考えられる。今後はガラスの3次元構造モデルと結晶構造の両方を用いて、イオン伝度経路の可視化に取り組んでいく予定である。
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