本年度は研究目的に記した「ホームレス問題の社会的ガバナンス」の研究を、特に「国家の影響」および「国際環境の影響」という二つの側面から大きく前進させる成果を上げた。これは研究実施計画の3年目の部分に該当するものである。まず「国家の影響」だが、Clause OffeおよびNicols Poulantzasの資本主義国家に関する基礎理論と、Enzo Mingioneの「新しい貧困」論に立脚しつつ、国家がホームレス問題を都市レベルに「移転」させる背景とメカニズムを検討した。そしてこれらの理論枠組を用いて、戦後日本におけるホームレス問題が、国家の作り出した「貧困調整システム」によってどのように統治/調整されてきたのか、その結果どのようにしてホームレス問題が出現するに至ったのかを、公的福祉や社会保障の支出額についての量的データや、生活保護の運用についての質的データを用いながら実証的に明らかにした。また「国際環境の影響」としては、Robert Boyer、Itoh Makoto、Bob Jessopが明らかにてきた「1970年代の世界危機(オイルショック)」が、日本における貧困調整システムにどのようなストレスを与え、どのような変容や再構築を迫ったのかを、国際経済の歴史的な推移と日本の福祉国家の推移を重ねながら解釈することで明らかにした。特に「1970年代の世界危機」が、他の多くの資本主義諸国ではホームレス問題の増大を生んだが、わが国では1990年代になってホームレス問題が出現したことを重視した説明を行った。わが国の経済が、「1970年代の世界危機」の乗り越えのために作った輸出主導・福祉縮小の経済体制が、1990年代になってホームレス問題を生んだことを明らかにした。
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