研究概要 |
本研究では,デグーの社会性および情動発声の脳機構を明らかにするために,海馬損傷手術がデグーの社会行動と発声行動に与える影響について検討した。これまでの当研究室での先行研究において,社会性齧歯類であるデグーは約20種類もの豊富な音声レパートリーを持っており,それらの音声を状況毎に使い分けて個体間でコミュニケーションを行っていることがわかっている。また,デグーの発声中枢PAGの電気刺激実験の結果から,デグーの状況依存的な発声はPAGよりも上位の領域で制御され,特定の文脈における適切な発声が可能になっているということが分かっている。また,学習・記憶研究における先行研究の結果から,文脈記憶に海馬が重要な役割を担っていることが明らかになっている。これらの先行研究をふまえ,本研究では,社会性行動と発声行動にも海馬が重要な役割を担っているという仮説を立て,海馬損傷手術が社会性行動の変化および発声行動の変化に与える効果を検討した。社会性行動として既知個体に対する行動の変化を,また発声行動としては既知個体との相互作用時における両個体の発声行動を,術前と術後で比較した。その結果,社会行動においては,海馬損傷群と既知個体との間で攻撃行動が増加したにも関わらず,発声行動においては,既知個体の拒絶発声は,海馬損傷群よりも偽損傷群に対して多く発せられることが明らかになった。以上の結果から,社会的相互作用と音声コミュニケーションにおける状況の認知は,別の脳機構が寄与している可能性が示唆された。
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