糖尿病に対する再生治療の臨床応用に向けた基盤技術の開発を目的として、単離した膵細胞集団の中から、極少数しか存在しない幹細胞を、純化・回収し、それらの分化・増殖・自己複製機構を解析することを試みている。幹細胞クローンの培養系におけるタイムラプス解析を用いることによって、非対称分裂による自己複製が観察されている。このような研究により、1個の膵幹細胞からどのようにして前駆細胞が生み出され分化していくのか、そして、その一方ではどのようにして1個の膵幹細胞が細胞社会の中で維持され続けるのかなどが明確になっていくものと考えられる。これらは、幹細胞を基点とする幹細胞システムに基づく細胞社会の形成過程を、単純化したモデルを用いて明らかにしていくための強力な独自性の高い研究ツールとなるものと考えられる。 (1).現在、C57BL/6J-Tg(pdx-1-DsRed2)から分離した幹細胞クローンの培養系におけるタイムラプス解析を用いて、非対称分裂による自己複製が観察され、膵幹細胞であることが強く示唆された。現在、膵幹細胞をマウスから分離するための準備実験として、膵幹細胞と考えられる細胞集団において、Pdx-1+/CDX+/CDY+共陽性細胞が高い頻度で存在することを確認した。 (2).フローサイトメトリーを用いて分離した膵幹/前駆細胞を、膵ストローマ細胞(stellate cells)や血管内皮細胞などと微小重力環境下に細胞集積体を形成させつつ共培養を行い、4種の膵内分泌細胞への成熟分化を観察する準備実験として、多光子顕微鏡を用いた観察系の確立を行っている。 (3)重力分散型回転培養装置を用いた膵島様スフェロイド大量創出法の開発に向け、先行研究として開始しているマウス膵β細胞由来MIN6細胞を対象として、模擬微小重力環境を利用した革新的な新規三次元培養法により、微小な膵島様スフェロイドの再構成と大量創出法に関する基盤技術の開発を試みた。MIN6細胞の三次元培養により微小な膵島様スフェロイドが大量に創出可能であり、それらはグルコース応答性の高いインスリン分泌能を発揮できることが明らかになっている(論文未発表)。現在、ストレプトゾトシンを用いた糖尿病モデルマウスを作製し、形成された膵島様スフェロイドの腎皮膜下への移植により、血糖降下作用等の治療効果の検討を行い、血糖の降下作用を確認した。
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