本研究の目的は、他者にたいする共感(感情の共有・理解)が強化または抑制されるメカニズムを明らかにし、さらに共感の強さにおける個人差の原因を解明することである。 採用期間二年目となる本年度は、脳内における「自己」の処理が、他者の感情の理解にどのように関わっているかを検討することに主眼をおいた。特に、感情の生成・経験と密接に関わる「自己の<身体>」の脳内処理を、機能的MRIを利用して計測し、この神経活動と他者への共感の関連を検討している。このうち主要な検討は以下の二つである。 (1)初年度に引き続き、他者の感情の理解に関わる神経活動を計測、これと身体処理の関連および共感性の個人差を検討 (2)自己の身体運動の主体感に関わる神経活動と、共感性の個人差の関連の検討 両研究項目とも、当該の実験課題遂行中の脳活動において、自己身体の処理(特に、身体内部の生理状態の知覚と制御)に関わる部位の活動が見いだされ、同時にこの部位の活動が、本人の主観的報告による共感的傾向の個人差との関連を示唆するデータが得られている。これらの結果は、さまざまな種類の身体の処理に関わる神経機構が、他者理解、そして日常場面での共感性と関わっていることを示唆する。
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