研究概要 |
本研究の目的は、他者にたいする共感(感情の共有・理解)が強化または抑制されるメカニズムを明らかにし、さらに共感の強さにおける個人差の原因を解明することである。 3年目となる今年度は,米国カリフォルニア州における社会性の研究プロジェクトに参加し,(1)他者の感情理解の正確さの個人差の検討,および(2)感情の理解にともなう生理活動の連動が他者理解において果たす役割の検討,の二点に関わる研究に従事した. 具体的には,30名の実験参加者が,注意や感情を制御する練習を3ヶ月間集中的に行うことによって,心身にどのような効果が現れるかを研究した.実験では,感情を推定される側と推定する側の両者の推定の一致度から「共感の正確さ」を数値化し,同時に,両者の生理指標(心拍・血圧(指先脈派)・発汗・呼吸)の連動を解析することにより,共感の正確さと,共感課題時の生理活動の連動が評価された. その結果,注意と感情制御のトレーニングによって,実験参加者の共感性尺度(Davis,1983)は有意に上昇していた.他者の感情理解の正確さについては,一部の課題にのみトレーニングの効果が見られたが,感情制御の訓練による社会不安(とくに愛着不安)の低減が,他者のポジティブ感情の正確な理解に関連することが示唆されている,また,課題中の生理指標から,他者の感情の推測と,その課題中の自分自身の生理的反応(とくに血圧系や皮膚電位系)の連動が変容することも示唆されている. 申請者は昨年度までに,自分の身体生理活動の調整に関わる神経機構が,他者理解,そして日常場面での共感性と関わっていることを示唆してきた(例えば,Fukushima et al.2011).3年目の研究はなお進行中であるが,申請者のこれまでの成果と合わせて,他者に対する共感の強さや正確さを左右する大きな要因の一つとして,身体の生理的活動と,これに対する認知・神経活動が関わっていることをさらに示唆した.
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