本研究では、胎生期から生後にかけての大脳皮質の神経細胞分化、層構築における転与因子Pax6の役割を、Pax6ヘテロ接合変異ラット(rSey^2/+)を用いて解析することにより、胎生期大脳皮質における神経細胞の発生と高次機能発現の因果関係を明らかにする。申請者は、これまでにPax6の機能が低下すると、表層を構成する細胞の産生時期が早まることを明らかにしている。 各層の神経細胞が産生される時期を決定する要因の一つとして神経幹細胞の細胞周期の長さが挙げられている。従って、rSey^2/+胚における表層を構成する神経細胞の産生時期の異常は、神経幹細胞の細胞周期が長くなっている可能性が考えられたので、本年度、胎生16.5日目の大脳皮質脳室帯に分布する増殖細胞の細胞周期を測定した。rSey^2/+胚の細胞周期はWT胚と比較して変化はなかった。このことから、細胞産生時期が早まった原因は増殖細胞の細胞周期の変化ではなく、別の要因によることが示唆された。大脳皮質を構成する細胞は領野によって産生時期が異なることが知られているので、現在領野の分布を解析している。胎生16.5日目より遅い時期に産生される細胞がどのような運命決定を行うか解析するため、胎生20.5日目の増殖細胞をBrdUで標識し、生後7日目に分布を調べた。標識細胞はWTに比べ、白質に留まっている細胞数が多く観察された。また、生後7日目のrSey^2/+の白質にWTには見られない神経細胞マーカーであるNeuN陽性細胞が異所的に分布している事を見いだした。以上の結果から、rSey^2/+は表層の細胞を産生後も神経細胞を産生するが、移動できず白質に留まることが推測された。この可能性をさらに検証するため、今後、神経細胞マーカー等を用いて胎生20.5日目にBrdU標識した細胞の詳細な解析を行う。
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