研究概要 |
転写因子Pax6遺伝子は発生期の大脳皮質原基に発現し、皮質形成に重要である。ヒトにおいてPAX6遺伝子にヘテロ接合変異が生じると大脳半球の容積減少及び機能障害を示すことが報告されている。さらに近年、自閉症の連鎖解析からPAX6を含む染色体領域の重要性が明らかにされた(Maekawa et al., Neurosci, Lett, 2009)。これらのことから、Pax6遺伝子の変異が、大脳皮質形成異常を引き起こし、行動・認知異常の原因となっている可能性が示唆された。そこで本研究ではPax6ヘテロ接合変異(rSey^2/+)ラットが自閉症モデル動物として見なせるか検討している。 昨年度までにrSey^2/+ラットが自閉症様行動異常を示すこと及び血漿中セロトニン量が減少していることを明らかにした。本年度は研究成果を論文としてまとめ、筆頭著者としてPlosOneに掲載された。rSey^2/+ラットの胎生16.5日に産生される神経細胞の産生時期が野性型に比べ表層に分布することを明らかにしている。本年度はさらに胎生14.5日に産生される神経細胞をGFPまたはBrdUで標識し、生後7日目に最終分布を確認した。その結果、rSey^2/+ラットは野性型に比べより表側に分布していたが、その差は軽微であった。さらに、rSey^2/+ラットの胎生期のbasal progenitorのマーカーであるTbr2およびsubventricular zoneのPH3の分布が野性型と異なった。これらの結果から、Pax6遺伝子が半減した影響が表層の神経細胞の産生に重要であるTbr2の機能を阻害するため、より胎生期後期で異常が現れると推測される。
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