本研究の目的は、侵略的外来種アルゼンチンアリの分布拡大メカニズム、アルゼンチンアリによる在来アリ駆逐メカニズムの解明である。アルゼンチンアリはスーパーコロニー(広範囲にわたり相互に協力的な無数の巣の集合)とよばれる特殊な社会構造をとる。スーパーコロニー形成は他種アリに対する競争力を高め侵略性の要因となっている。また、巣仲間認識フェロモンはスーパーコロニーごとに固定されているため、アルゼンチンアリの分布拡大に伴いスーパーコロニーは際限なく巨大化できる。以上より、スーパーコロニーに注目して研究を進めた。 今年度の主な実験成果は、スーパーコロニー間の遺伝子流動抑制メカニズムを解明したこと、原産地南米に渡航し現地でのスーパーコロニー規模と生息密度を調査したこと、である。スーパーコロニー間の遺伝子流動抑制メカニズムについては、オスアリ(生殖虫)は働きアリとよく似た巣仲間認識フェロモンをもつため、他スーパーコロニーへ移動しても激しい敵対行動を受け、配偶相手にたどりつけないことがわかった。また、原産地での調査では、スーパーコロニー規模が侵入地に比べはるかに小さいこと、生息密度が侵入地より低いことがわかった。 研究発表の面では、前年度の実験成果【ヨーロッパ・北米・アジア3大陸の巨大スーパーコロニー(各数百km以上の規模)が相互に敵対せず地球規模のスーパーコロニーであることを発見】をまとめた論文が印刷され、BBCをはじめとする数多くの海外メディアによって報道された。また、米国出版社の書籍中で総説を執筆した。 ※協力者の都合や競合グループとの関係、メディアへの対応に追われたこと、書籍の執筆依頼を受けたことなどにより、当初の計画から変更になった部分もある。
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