まず『時代の鏡』諸写本中のサービー一族の著した歴史書からの引用箇所を確定し、同書の校訂作業を進めると共に、その史料的価値を明らかにする作業を行った。また『時代の鏡』の史料価値の確定に伴い、同史料を用いた軍事政権の対カリフ政策やカリフの権威の利用に関する事例を抽出し、分析を進めた。 次に、政治論説、逸話集、各種の書簡集、文芸書など、10-11世紀に執筆された、あるいは当該時期の内容を含む未刊行史料の写本調査については、それらの資料の著者たち、すなわちウラマーや官僚たちが属した知的サークルとその活動を把握し、彼らの著作をリスト化する作業を行った。この作業には世界各国に存在する図書館や文書館の写本目録を参照する必要があるが、この写本目録を体系的に収集している我が国の図書館は存在しない。そのため目録所蔵先を個別に訪問して閲覧、あるいはコピーを取り寄せて参照する過程を経る必要があり、その作業に時間を割いた。また我が国に所蔵が確認されない目録に関しては購入やコピーの取り寄せなどで対応した。 特に欧米の図書館・文書館の写本目録は刊行年が古く18世紀のものなどもあるため、入手が困難であり、該当の図書館に赴いて調査閲覧する必要が生じた。そこで、20年度はイギリスのオックスフォード大学付属ボードリアン図書館およびロンドンの英国図書館を訪問し、特にボードリアン図書館において2週間ほど写本及び写本目録の調査閲覧を行った。また英国図書館でも写本調査及び写本目録の閲覧を行った。
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