現在「標準模型」を超える物理として「超対称性模型」が多方面から研究されている。超対称性粒子は電弱対称性の破れと関係なく質量パラメーターを獲得でき、一般にそのスケールが高ければ標準模型を支持する様々な実験結果に矛盾しないが、ヒッグス場と強く結合するスカラートップ粒子の質量は例外で、この粒子の質量が電弱スケールから遠のくほど電弱スケールが不安定になるというナチュラルネスの問題がある。一方、ナチュラルネスの観点からスカラートップ粒子の質量を電弱スケールに保つと、今度はこの軽いスカラートップの寄与によりアップクォークのクロモ電気双極子モーメントが誘発され、これが現在の実験的上限を一般には超えるという問題がある。この間、報告者はこの困難を解決するための研究を行った。より具体的には、この効果は超対称性の破れのスケールを上げても残るノンデカップリングな効果のため、この寄与を抑制するための方法をCP対称性の破れの起源との関連において考えた。「標準模型」における小林・益川位相は湯川行列に起因することから、最小超対称標準模型におけるフレーバーを破るパラメーターは一般に複素位相を持つと思われる。しかしながら、本研究ではさらにアップタイプ(ス)クォークセクターに関るパラメーターが全て実である状況を提案し、これによって、先の電気双極子モーメントは抑制されつつも将来の実験で観測が期待される範囲に誘発されることを示した。またこれを踏まえ、その様なCPの破れの形を実現する具体的な模型の構築E6超対称大統一理論にSU(2)フレーバー対称性を課して構築した。興味深いことに、この模型ではJarlskog不変量やクォーク、レプトンの質量階層性、混合角がうまく再現されることの他に、小林・益川行列の(13)成分が(31)成分より小さくなる傾向があることやtanが6程度に決まることなど、この模型に特有の予言が得られることを示した。
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