植物の葉の表皮に存する気孔は、植物体内と体外と結ぶ孔(ポア)であり、光合成に必要なガス交換や蒸散による水分放出を制御する重要な場所である。植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)とジャスモン酸メチル(MeJA)は気孔閉口を誘導する働きを持つ。孔辺細胞においてはABAとMeJAのシグナルネットワークが存在することが知られているが、その詳細は不明である。 本年度は、孔辺細胞におけるABAとMeJAのシグナルクロストークに関与する新規シグナル伝達因子の探索を行った。結果、タンパク質脱リン酸化酵素2AであるRCN1、及びカルシウム依存性タンパク質リン酸化酵素CPK6が孔辺細胞におけるABAとMeJAのシグナルクロストーク内で機能しており、気孔閉口シグナルにおいて下流で働く孔辺細胞原形質膜イオンチャネルの活性制御に必須の因子であることを明らかにした。 孔辺細胞外(アポプラスト)に存在するシグナル因子も気孔の開閉運動に大きな影響を与えることが知られている。本研究では、アポプラストのシグナル因子としてCa2+と活性酸素種に着目して解析を進めている。Ca2+活性化カチオンチャネルであるAtTPC1は、孔辺細胞がアポプラストのカルシウムイオン濃度変化を感知して気孔閉口運動を行う際に重要な役割を担っている。本年度はAtTPC1の遺伝子を破壊したシロイヌナズナ変異体を用いて逆遺伝学的解析を行い、アポプラストのCa2+シグナルにおけるAtTPC1の役割に関する知見を得た。 気孔閉口を誘導する因子としてABAに多くの注目が集まり、幅広く研究されている。本研究はABAに加えて、MeJA並びにアポプラストを介したcell to cellの気孔閉口シグナル情報伝達に関する多くの知見を提供する。このことにより、様々なストレスが複合する自然環境下における気孔開閉運動制御メカニズムの更なる理解に貢献できるものと考えている。
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