従来のC-H結合活性化を利用する反応では、分極していない不飽和分子を挿入させるものが大部分を占めていた。私はこれまで有機合成反応に利用されることが少なかった7属元素の錯体を用いて研究を行なった。7属元素であるマンガンやレニウムは、周期表では前周期と後周期の間に位置するため、従来C-H結合活性化反応に用いられてきた後周期金属錯体とは異なる反応性を示すことが期待された。反応を試みたところ、C-H結合の活性化に引き続き、不飽和カルボニル化合物やアルデヒドなどの分極した分子が挿入することを見いだしている。このようなレニウム触媒の特異的な反応性に興味をもち、反応メカニズムの詳細な検討を行なった。重水素化実験、速度論的同位体効果、鍵中間体からの反応などを検討することにより従来C-H結合活性化反応に用いられてきたロジウムやルテニウム錯体とは異なるルートで反応が進行していることがわかった。さらにレニウム触媒はベンゼン環のC-H結合だけでなく、オレフィンのC-H結合も活性化できることがわかった。レニウム触媒存在下、オレフィンを有するイミンとアクリル酸エステルを反応させると、シクロペンタジエン誘導体と少量のシクロペンタジエニル-レニウム錯体が生じた。レニウム触媒の量を基質と同じだけ加えることで、シクロペンタジエニル-レニウム錯体のみをほぼ定量的に合成することに成功した。本反応はシクロペンタジエニル錯体の合成法として非常に効率が高く、今後レニウム錯体だけでなく他の多種多様な金属錯体の合成へと応用できることが期待できる。
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