政治体制の変動、おおまかに二分すると「独裁制から民主制への移行」と「民主制の独裁化」の論理を解明すべく、平成20年度は個人研究および共同研究を行った。個人研究では独裁制のひとつの下位類型である「選挙権威主義体制」が存続・崩壊する論理を考察し、その上で大量観察型の計量分析およびセルビア共和国の事例研究を行った。計量分析の結果から、選挙での投票率が高いほど、また選挙前の時点での与党の議席占有率が低いほど、選挙権威主義体制は崩壊し民主制へと変動しやすいという傾向が確認された。平成20年度の時点では、一部のデータがまだ整理を要するため暫定的な結論となるが、事例研究でも同様の傾向が確認され、仮説が実証されたと考えられる。 共同研究では独裁制に下位類型を設けず、先行研究で主張されていた「社会の経済的不平等が小さいほど独裁が崩壊し民主制へ移行しやすくなる」という仮説を大量観察型の計量分析によって反証した。実際に、20世紀後半のデータを概観すると経済的不平等は多くの国で高くなっているにもかかわらず民主制の数が増大しており、説明が求められていた。私たちの提示した代替的な仮説は、不平等の体制変動へもたらす効果は旧体制エリート内の亀裂および/あるいは反体制運動を担う社会の組織性に条件付けられているというものである。計量分析による実証のみで経験的な検証が不十分な点、また論理自体も先行研究の状況に鑑みてフォーマル・モデルを導入する必要があるとはいえ、体制変動研究に新たな知見を加えることができたと言える。
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