報告者の研究目的は、ナイジェリア、ムスリム・ハウサ社会において、一見養取(養子縁組)とも養育(里親制)とも見て取れる「リコ(ri'ko)」という慣行の実態を明らかにし、血縁原理を超えた当該社会の動態的かつ柔軟な親子・家族形態を明らかにすることである。研究実施計画に即して4月〜12月までの約計7ヶ月半の間、現地において参与観察及び聞き取り調査を実施した。一家庭において継続的に参与観察することや複数の村人とのコミュニケーションの中で、ハウサ社会の家庭における日常生活や冠婚葬祭を体感した。それにより人々の言行(不)一致を確認することができ、また現地の生活に沿った質問の仕方ができるようになった。 本調査の成果公表は、2009年度に行う口頭発表、及び学会への論文投稿により行う。今回は、結婚した〈子〉と育ての親(以下育親と表記)の継続的関係性、及び育親と生みの親(以下生親と表記)、双方の子育て参加の仕方に着目した。前者に関して先行研究では、当該慣行は「子の結婚前後まで」とされ、「子の委託による社会的意義」が多く論じられできたが、調査の進展上様々な疑問が浮上した。例えば通常、娘が離婚をすると実家に戻るが、これまで当該慣行の当事者に関して、そういった記述は見られない。報告者の調査では、〈娘〉の「出戻り」先について、生親と育親とで互いに自宅を主張したり、同じ育親でも各〈子〉達の戻る先が異なる(生家・育家・両方可等)という多様な回答が見られた。この点だけでも、リコ関係が子ども期に留まらない点やリコ概念の多様性が指摘できる。また先行研究では、「養育」中は「里親」が子育てをするとされているが、報告者の調査では、生親と育親で教育支出を分担している事例が見られた。以上のような従来注目されていなかった詳細な点に焦点を当てることで、アフリカの実態的親子形態の解明を進展できる。
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