平成20年度における本研究目的は、「人は正確に"顔を読む"ことができるのか?」という問題を基に、顔をキーワードとした研究に取り組むことであった。具体的には、「表情の個人差」や「化粧と表情の相互作用」といった細かいレベルの人間の顔認識能力の正確さに注目した実験的研究を実施した。「表情の個人差」に関する研究では、これまでの研究で明らかにした顔の表情印象傾向を推測するようなタイプ(他者に対し一貫して比較的にpositiveな印象傾向を示しやすいpositive type、negativeな印象傾向を示しやすいnegative type)の決定要因を、入れ替え合成画像を刺激として作成し、実験的に検討した。その結果、他者の顔タイプを判別する上で最も有効的であるのは口元の情報であることが示された。positive typeは中立状態でも口角が上を向いた形状の口をしており、negative typeは中立状態でも口角が下を向いた形状の口をしている。他者が読み取る表情に、個人の顔に由来する個人差が存在することを示したこの研究は、社会的コミュニケーション場面においての印象変化など、幅広い分野での発展が見込まれる基礎研究となり得ると考えられる。また、発展的位置づけと研究として、実際の社会的コミュニケーション場面を想定して刺激を動画とした同様の研究を実施した結果、動画時でも顔タイプは存在するが、顔タイプ間の表情印象の差は静止画時と比較して小さくなることが示された。そのため、人間には他者の心的状態を正確に測ろうとする調整機構が存在し、動因条件ではこれが働いた可能性が推測された。刺激が動画でも、静止画時に認められた顔タイプの効果が持続されることが示されたことは、印象変化という研究領域の必要性」を示唆するものであると考える。
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