昨年度までの研究に引き続き、DNA二重鎖切断修復酵素が欠損した細胞に組み込まれたヒト免疫不全ウイルス(HIV)及びマウス白血病ウイルス(MLV)のDNA周辺の塩基配列の異常を解析した。その結果、レトロウイルス感染においてDNA二重鎖切断修復酵素は組み込み過程だけでなく、逆転写反応や組み込み領域の選択をも制御していることが明らかとなった。よって、今まで考えられていた以上にDNA二重鎖切断修復酵素はレトロウイルス感染に密接に関与していることがわかった。以上の結果を論文として発表した。 上記の研究により得られたデータをさらに解析した結果、DNA二重鎖切断修復酵素の一つであるMre11を欠損した細胞では、MLVが遺伝子内に組み込まれる効率が上昇している傾向が示唆された。結果としてHIVに類似した組み込み領域指向性を示していた。この可能性を証明するために、高速シーケンサー(illumina社製)を用いて組み込み部位の大量解析を現在行っている。Mre11相補細胞を用いて解析手法や条件を検討した結果、約25000箇所のMLVの組み込み部位を同定することに成功した(1サンプルあたりの組み込み部位の解析数としては過去最多)。それらを解析した結果、転写開始点付近やCpG island付近に組み込まれる効率が高いことが確認され、過去に報告された傾向と一致していた。現在は、Mre11に加えて、NBS1やATMの欠損による影響を検討するために、それら欠損細胞と相補細胞における組み込み領域を解析している。また、プログラミングソフト(Per1)を用いて解析効率の上昇と多面的な解析を行うことを試みている。
|