申請者は前年度にイヌの毛包バルジ領域に細胞の分裂速度が遅いという幹細胞の特徴を持った細胞が存在し、これらの細胞集団がヒトやマウスの毛包幹細胞マーカーを発現し、in vitroで高い増殖能を持つことを明らかにした。この結果を受け平成22年度は、1.イヌ毛乳頭細胞の分離、培養、生物学的特徴の解析を行い、2.毛包再構成の系を用いてイヌバルジ細胞の多分化能の検討を行い、3.さらにWntシグナル調節因子を中心にイヌバルジ細胞の培養条件の検討を行った。過去の報告の通りイヌ毛乳頭を顕微鏡下で分離し培養することに成功した。イヌ培養毛乳頭細胞はヒトやマウスと同様にALPやWIF1などの毛乳頭マーカーを発現していた。培養条件の検討を行った結果、ケラチノサイト条件培地やラミニンコート培養皿が毛乳頭マーカーの発現の維持に寄与した。毛包再構成の系において、イヌバルジ細胞と胎児マウス真皮細胞を混合し移植したところ、肉眼的にも組織学的にも完全な成長期毛包および脂腺、表皮の再構成が認められた。再構成された組織においてはバルジ細胞および脂腺マーカーの遺伝子発現がイヌ特異的なプライマーを用いて検出された。これにより、移植したイヌバルジ細胞が多分化能を持ち、毛包を再構成した可能性が示唆された。また分離した細胞をWntシグナル活性化物質と共に培養したところ、各種バルジマーカーの発現が低下する一方、ロリクリンなどの角化細胞分化マーカーの発現が上昇した。これにより、Wntシグナルを抑制することでバルジ細胞の幹細胞としての性質が保たれることが示唆された。以上の結果から、多分化能を持つイヌ毛包バルジ細胞を幹細胞の性質を維持したまま培養することで、再生医療の優れた細胞供給源になり得る可能性が示された。
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