今後の天然物化学研究の展開について考えた場合、医薬資源として重要な天然物の基本骨格構築に関わる酵素をとりあげ、これを利用、改変することにより新規有用物質の生産に結びつけていく試みは魅力的である。二次代謝酵素の中には、微妙な構造の違いで基質特異性や生成物の構造が大きく変化するものがあって、これが天然物の分子多様性を生み出す大きな要因になっている。多様な構造と生物活性を示す一連の植物ポリフェノールの基本骨格を構築する植物由来III型ポリケタイド合成酵素(PKS)をとりあげ、これら酵素の精密機能解析と新たな酵素機能の開拓を主たる目的とした。キダチアロエ(Aloe arborescens)より得られたオクタケタイド合成酵素(OKS)は8分子のマロニルCoAの縮合を触媒し、オクタケタイドを生成するPKSでありOKSの結晶構造に基づき、OKSの活性中心に存在するAsn222残基に着目し、N222G変異により活性中心キャビティを拡大させ、10分子のマロニルCoAの縮合による非天然型デカケタイドの創出に成功した。このOKSN222Gについても結晶化に成功し、その結晶構造解析からN222G近傍に存在するF66に着目し、種々変異導入を行い、精査した結果F66L/N222G変異体により、さらに2分子分縮合数が増加したマロニルCoA12分子が縮合したドデカケタイドの生産に成功した。本化合物については現在、NMR等により構造決定を急いでいるが、OKSにおいてマロニルCoAを基質としたオクタケタイドの生産から合理的な部位特異的変異導入によりデカケタイドそしてドデカケタイドへの酵素触媒機能の変換が可能となった事で、他のCoAエステルを組み合わせ反応の多様性が生まれ、更なる新規ポリケタイド化合物の創出、そして更なる新規有用物質の生産への一つのアプローチを示した。
|