本研究では核融合炉の固体増殖材候補である三元系リチウム酸化物中における水素同位体の存在状態および捕捉・拡散・再結合などの素過程を明らかにすると共に、イオン照射下における動的な損傷機構を解明し、この構造変化が水素同位体挙動に及ぼす影響を調べることを目的としている。本年度は、高速イオン散乱分析が固体内の水素同位体を定量でき(反跳粒子検出法)、加えて単結晶試料の場合には固体内の結晶の乱れをプローブすることができる(イオンチャネリング法)点に着目し、水素イオン照射にともなうリチウム酸化物中の水素捕捉と形成される欠陥、およびそれらの相関について調べ、大きく以下の2点について新たな知見が得られた。 1、イオン注入にともなう水素捕捉:種々の三元系リチウム酸化物(Li_2TiO_3、Li_2ZrO_3およびLiAlO_2)に対し水素同位体イオン注入を室温にて行い、捕捉水素の深さ分布変化を調べた。Li_2TiO_3およびLiAlO_2中の水素捕捉はイオン照射の寄与が支配的である一方、Li_2ZrO_3の場合は元より含まれる欠陥や格子間位置などの捕捉サイトも大きく寄与することが分かった。これは基礎的な水素挙動の解明という点に加えて、各々の増殖材におけるトリチウム回収性能評価という点についても意義深いものと考える。 2、イオン照射された単結晶試料中の欠陥形成:候補材の中でも単結晶の入手可能なLiAlO_2にイオンチャネリング法を用いることにより、重水素イオン照射にともなうダメージの形成過程は欠陥種または熱回復挙動の異なる3つの段階から成ることがわかった。また、捕捉重水素および欠陥の深さ分布の比較から、欠陥形成と水素捕捉は密接に関係するものと考えられた。これらは、照射下における光学特性のその場測定を行い、動的な照射損傷機構を検討する上で極めて重要な知見である。
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