研究概要 |
本研究の最終的な目的は,認知心理学における後悔研究に文化心理学的手法を新たに導入し,後悔の文化的・社会的側面を検討することによって,後悔が,人々が当該の社会へ道具的・心理的に適応することを促進する機能を持つ可能性を実証的に検討することにある.そのために本年度は,(1)日米の後悔の文化的な特徴を検討すること,(2)またそうした文化的な特徴を持った後悔に応じて自分の行動を変化させるかどうかを実験的に検討すること,の2つを具体的な研究目的とした.目的(1)について,本年度の研究では,文化心理学の知見に基づき,後悔を感じる状況が他者を含んでいない場合(個人的状況)と含んでいる場合(対人的状況)の文脈を設定し,それらの文脈において日米の大学生がもっとも後悔している出来事について検討した.この結果,個人的状況では両文化とも「行動すればよかった後悔(Inaction)」よりも「行動しなければよかった後悔(Action)」を強く後悔するのに対し,対人的状況では,日本人はActionをInactionよりも強く後悔するが,アメリカ人はこのような傾向が見られなかった.さらに,目的(2)を達するために,ルーレットゲームを用いて,その結果が友人の報酬を決定する状況(対人的状況)と自分の報酬を決定する状況(個人的状況)を実験室に作成し,ルーレットで負けたときの後悔の強さおよびルーレットの選択行動を検討した.この結果,日本人大学生は,対人的状況において,ルーレットを変えたとき(Action)のほうが変えなかったとき(Inaction)よりも強く後悔を感じ,またInactionをより多く選択しがちであった.この一方で,個人的状況では後悔の強度・選択行動ともに有意な差は見られなかった.本研究は,後悔が文化に依存する側面を持つこと,またその文化的差異が実際の行動選択や意思決定に影響を与えることを示した点で意義があると考える.
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