本研究の最終的な目的は、後悔の文化的・社会的側面を検討することによって、後悔が、人々が当該の社会へ道具的・心理的に適応することを促進する機能を持つ可能性を実証的に検討することにある。本年度はまず、対人場面での後悔と関連していると考えられる謝罪について着目し、その重要性の文化的差異が後悔の差異を引き起こしている可能性を検討した。具体的には、アメリカは流動性が高く、信頼できる相手を探すことにコストがかからない。このような社会では、比較的多くの関係性について謝罪する誘因がなく、加害者は一般的には謝罪しないだろう。また被害者も謝罪だけでは加害者を許し難く、修復の誘因となる補償を求めるだろう。しかし一方、日本では流動性が低く、新たに信頼できる相手を探すことに(アメリカと比較して)コストがかかる。このような社会では、双方ともに関係性を続けることにある程度のメリットを持っており、多くの関係性について、謝罪の受け手は謝罪者が誠実に謝罪しているかを判断していると考えられる。このため、日本においてはアメリカよりも謝罪行動がより一般的に見られ、お互いに過多なコストを強いる補償よりも謝罪だけで十分許す誘因となると考えるだろう。 今年度の研究では、このような謝罪行動の文化的な差異が実生活で本当に見られるのかを検討するために、謝罪行動の仮想場面を設定し、日米で質問紙実験を行った。具体的には、他者に被害を与えた場面について、謝罪の有無と補償行動(コストのかかる謝罪)の有無を独立変数とした4条件での謝罪行動を呈示し、それぞれの謝罪行動について、「そのような謝罪行動を自分の周囲の人々がどの程度しがちか」また「そのような謝罪行動をされたときにどれだけ自分が許すか」を評定してもらい、仮説を支持する結果を得た。
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