私の研究目的は、極低温凝縮原子気体に代表される量子流体において、その乱流状態(量子乱流)を理論的に解明することである。私は前年度に引き続きスピン2の自由度を持ったスピノール・ボース・アインシュタイン凝縮体において実現される非可換量子渦の理論的研究を行った。 今回、私はこの非可換量子渦においてvortex tilingと我々が名付けた、今まで知られてきたどんな量子渦においても研究されてこなかった現象が起こりうることを初めて明らかにした。スピノール・ボース・アインシュタイン凝縮体のような内部自由度のある系において量子渦が作られると、渦の内部を占める対称性の候補が複数ある場合、どの対称性の状態がスピン空間のどの向きで渦の内部にはめこまれるのか?というvortex tilingが生じる。非可換量子渦の場合、渦の外側と内部を占める2つの状態がスピン空間において異なった離散対称性を持っており、この場合にはこれら離散対称性の非整合性により、さらに渦芯の回転対称性が破れることが明らかになった。渦芯の回転対称性の破れ方は、渦の内部を占める状態の離散対称性によって決まる。つまり出来上がった渦の形を見れば渦の内部を占める状態のスピン空間における形が分かることになる。またスピン2のスピノール・ボース・アインシュタイン凝縮体には、cyclic相と呼ばれる非自明な相が理論的に予言されている。cyclic相はルビジウム原子によるボース・アインシュタイン凝縮体での観測可能性が提唱されているが、かなり絶望的である。ところがcyclic状態を渦芯として持つ量子渦をルビジウム原子で作ることができることを私は発見した。さらに1本の渦糸を考えたとき、渦糸上の励起として渦糸上の新しい波(ツイスト波)の存在を与える。このような渦で量子乱流を形成した場合、ツイスト波による新しいエネルギーカスケードの存在が予想される。
|