本研究は、菌類ウイルスを人工的に改変することにより植物病原菌類の植物への病原性を制御することを目的としている。イネに甚大な被害を与えるイネいもち病は、イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)によって引き起こされる、世界の食糧安全保障を脅かす最重要植物病害のひとつである。Magnaporthe oryzae virus2(MoV2)はTotivirus科の二本鎖RNAウイルスで、イネいもち病菌に感染する非常にユニークなウイルスである。 今年度は、まずMoV2によるイネいもち病菌の病原性の制御のための基礎的知見を得る目的で、イネいもち病菌ウイルスのハイスループット検出系を確立した。 菌類ウイルスの検出は、一般に二本鎖RNAの特異的抽出によっておこなわれている。しかし、この手法は菌体の再培養を必要とし、実験操作もラージスケールであるため、サンプル数が多い場合には不向きであった。今回、菌体を再培養することなく菌体から簡易に核酸を抽出し、ノーザンドットブロット法によってハイスループットかつ特異的にウイルスを検出する手法を確立した。 本法を応用することにより、MoV2がどのようにイネいもち病菌の間で伝搬されるのかを調べることができる。また、MoV2をウイルスベクターとした際に、ベクターに導入した遺伝子の抜け落ちの頻度も調べることができる。さらに本法は、他の菌類ウイルスについても応用できるため、非常に有用であると言える。 今後は、MoV2の感染系を確立し、本法と組み合わせることにより、MoV2によるイネいもち病菌の制御系を開発していきたい。
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