本年度は当該研究の目的である、『1.下層植生が保有する葉が落葉するまでのプロセス』について集中的にデータの採取を行い、モデル構築の基礎となる知見を得て論文にまとめた。また本研究の目標の一つである『2.下層植生の種組成の変化がリター量に及ぼす影響』について、樹木個体レベルではあるものの、定性的な結果が得られた。 1.葉が落葉するまでの、加齢に伴う生理活性と養分含量の低下に注目して、その定量的な計測を行った。その結果、本研究が対象とする暖温帯林人工林の下層では、生理活性の低下は顕著ではなく、他地域で行われてきた従来の研究の知見に立脚した生理・化学特性の予測モデルが、暖温帯林の下層植生では適用できないことが明らかになった。この知見を基に、葉群内の生理特性の空間分布についての結果を論文にまとめ、投稿中である(New Phytol)。 2.リターの化学特性に加え、リター量の予測モデルについてもデータの採取と解析を行った。薄い葉が多数落葉する落葉樹植生と、分厚い葉が少数落葉する常緑樹植生をモデルケースに、人工林管理によって下層植生の主組成が変化した際に、年間のリター量がどう推移するのか、検証を行っている。この問いに対し、葉量の同程度の落葉樹個体と常緑樹個体では、個体からの総リター量が落葉樹で有意に大きいことが明らかになった。この傾向は、世界中で集められている葉の生理生態特性のデータベースからも裏付けられることが分かった。 この結果は、落葉樹では保有する葉の欠乏に陥りやすいことを示唆しており、このことが鬱閉した人工林下層での生息数の低いことの原因ではないか、という仮説を提起して、論文を投稿中である(J.Plant Res.)。
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