研究課題
ファイトプラズマ(Phytoplasma asteris)は、700種以上の植物に感染する植物病原細菌であり、農業生産上甚大な被害を引き起こす。ファイトプラズマは植物体内においては篩部細胞に局在し、ヨコバイなどの吸汁性昆虫によって植物から植物へと伝搬される。このようにファイトプラズマは植物・昆虫という全く異なる宿主へと交互に感染する「ホストスイッチング」によって生活環を成り立たせており、その宿主適応メカニズムに興味が持たれている。本研究では、ファイトプラズマがどのように異なる2界の宿主環境を認識して遺伝子発現を制御しているのかを明らかにすることを目的とする。昨年度は、本研究室で解読されたPhytoplasma asteris OY-Mの全ゲノム配列から、ファイトプラズマの転写因子としてRpoD及びFliAを特定した。これらの転写因子の宿主内における転写発現量を比較するため、RpoD及びFliAのリアルタイムPCR解析行った。その結果、FliAは両宿主で発現量に差は認められなかったが、RpoDは昆虫宿主で約3.5倍発現量が上昇していた。従って、RpoDが昆虫宿主において優先的に機能する転写因子であり、ホストスイッチングに関与していることが示唆された。更に、各転写因子のタンパク質発現を確認するため、抗RpoD及び抗FliA抗体の作製を行った。各抗体を用いて、OY-M感染植物及び感染昆虫の免疫組織化学的染色を行ったところ、ファイトプラズマが局在する組織特異的に、発現シグナルが確認された。従って、両宿主においてRpoD及びFliAタンパク質が発現していることが明らかとなり、精度及び反応性の高い抗転写因子抗体を作製したことが示された。昆虫宿主特異的に機能する転写因子を特定したことは、ペストやチフスなど、人に重大な病気を引き起こす昆虫媒介性細菌の感染メカニズムの研究にも大きなインパクトを与える可能性を秘めており、農業分野のみならず広い関連分野への波及効果が期待される。
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