研究課題
ファイトプラズマ(Phytoplasma asteris)は、700種以上の植物に感染する植物病原細菌であり、農業生産上甚大な被害を引き起こす。ファイトプラズマは植物体内においては篩部細胞に局在し、ヨコバイなどの吸汁性昆虫によって植物から植物へと伝搬される。このようにファイトプラズマは植物・昆虫という全く異なる宿主へと交互に感染する「ホストスイッチング」によって生活環を成り立たせており、その宿主適応メカニズムに興味が持たれている。本研究では、ファイトプラズマがどのように異なる2界の宿主環境を認識して遺伝子発現を制御しているのかを明らかにすることを目的とする。昨年度は、本研究室で解読されたPhytoplasma asteris OY-Mの全ゲノム配列から、ファイトプラズマの転写因子としてRpoD及びFliAを特定した。これらの転写因子の宿主内における転写発現量を比較するため、RpoD及びFliAのリアルタイムPCR解析行った。その結果、FliAは両宿主で発現量に差は認められなかったが、RpoDは昆虫宿主で約3.5倍発現量が上昇していた。従って、RpoDが昆虫宿主において優先的に機能する転写因子であり、ホストスイッチングに関与していることが示唆された。更に、ホストスイッチングに伴うファイトプラズマの環境応答シグナル伝達系の全容を解析するため、ファイトプラズマ感染後、抽出した植物及び昆虫のRNAを用いてマイクロアレイ解析を行った。その結果、全遺伝子の内40%を占める306遺伝子において、植物と昆虫宿主内で発現量に変化が見られた。従って、ファイトプラズマは宿主転換に伴い、遺伝子発現を大きく変化させていることが示唆された。また、マイクロアレイで特定した、昆虫で発現が上昇している遺伝子のプロモーター解析を行った。その結果、昆虫で発現量が上昇している遺伝子上流に、特定のコンセンサスな配列(昆虫宿主特異的なプロモーター)が存在することが明らかとなった。今後、昆虫宿主内における遺伝子発現制御に重要な役割を担っているとされるRpoDと、特定した昆虫で発現量が上昇している遺伝子のプロモーター配列との結合を解析していく予定である。
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