研究概要 |
感染できない病原菌が感染を試みると、その極初期に活性酸素種(ROS)や一酸化窒素(NO)が生産され、続いて動的な防御応答が誘導される。これらラジカル分子の生産は、急激な応答反応であることから、それぞれ"オキシダティブバースト"、"NOバースト"とよばれている。しかし、その制御機構はほとんど解っていない。植物の特徴的な抵抗反応である過敏感(HR)細胞死誘導には、ROSとNOの協調的なバランスが必要である。ラジカルバーストの新たな制御機構を探る目的で、約5000遺伝子をウイルス誘導型遺伝子サイレンシング法でサイレンシングし、HR細胞死に関与すると思われる候補遺伝子(CDAs;CELL DEATH ASSOCIATED genes)を同定した。その中で、CDA1は、リボフラビン生合成経路に含まれる2つの酵素(GTPCH,DBPS)活性ドメインを持つタンパク質をコードしていた。CDA1をサイレンシングしたNicotiana benthamiana葉では、ジャガイモ疫病菌由来のINF1エリシターによって誘導されるHR細胞死に加えて、ROSやNOの生成も顕著に抑制された。さらに、この抑制されたHR細胞死とラジカルバーストは、リボフラビン処理によって相補された。以上の結果より、リボフラビン合成がラジカルバーストの制御に関与していることを明らかにした。リボフラビンは、NO生産に関与する硝酸還元酵素、NO合成酵素や活性酸素を生産するNADPHオキシダーゼの補酵素であるFMNとFADの前駆体であり、CDA1のサイレンシングによるラジカルバーストの低下は、FMNとFADの減少に起因するものと思われる。これまでラジカル分子(ROS,NO)生成酵素の活性制御に関わる具体的な因子についての報告はなく、世界で初めての発見である。
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