本研究は、レヴィナスの身体論と時間論の交錯を通時的・生成史的に把握することを目的とするものである。本年度は研究計画通り、前期から中期にかけてのレヴィナスの思索の歩みを、ベルクソンやマルセルなどのフランス哲学との関係を考察しつつ研究した。1、身体論について。(1)これまでのレヴィナス研究において注目されることが少なかった「定位」という概念に着目して研究を行い、この概念が身体と結びつけられる前期主著『存在するものへ』における「定位」概念の内実と、定位概念によって意味づけられる身体概念の内実を明らかにした。この論点については、『存在と所有』などで展開されるマルセルの身体論が、前期レヴィナスの身体論に一定の影響を与えていることも明らかになった。(2)世界内の対象との基礎的関係(中期以降、「感受性」概念によって性格づけられる関係)が一貫して「志向」ないし「志向性」という概念との関係のもとで記述されることに注目し、レヴィナスの現象学関係のテクストについて研究を行った。これにより、フッサールに対するレヴィナスの理解が変化していく過程と、この変化が、レヴィナスが「私の身体」・「感覚」・「キネステーゼ」に関するマルセルの思索から一定の影響を受けつつヒュレー的与件すなわち感性的与件についての思索を深めていったことによることを明らかにした。2.時間論について。(1)不連続な瞬間から成り立ち、かつ現在を主要な瞬間として有する時間を提示する前期および中期の時間論の生成過程を追跡し、レヴィナスが中期まで一貫して重視する「現在」という概念を、すでに1930年代半ばから思考し始めていたことを明らかにした。(2)不連続な瞬間という論点については、レヴィナスがその時間論を練り上げていくうえで、ベルクソンの『試論』におけるメロディーの分析が大きな影響を与えていることが明らかになった。
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