研究課題
本研究の目的は、砂漠化著しい中国内蒙古自治区ホルチン砂地における、持続的な生態的・社会経済的目的に応える統合型上地利用モデルの提案である。本年度は、土地利用モデル構築に必要な、砂丘地形上の植生回復パターン(1)、および対象地域における砂漠化政策の実施プロセス(2)の解明を行った。(1)主要な砂丘固定技術(禁牧・灌木植栽・高木植栽)の長期的適用により、砂丘地形上で植生回復がどのように進むのかを調査した。結果として、砂丘固定技術の種類によらず、砂丘間低地を起点とした植物の定着・分散により、砂丘下部→中部→上部へと地形傾度に沿って植生の回復が進むことを示した。これにより、これまで未解明だった砂丘地における植生回復の空間パターンを明示することができたといえる。(2)鎮政府・村落自治組織・農家という地域社会を構成する三階層の意思決定主体に着目し、主要な砂漠化政策の実施プロセスをインタビューとGIS解析により調査した。その結果、政策実施プロセスは鎮→村落→農家という一方向的なものではなく、各主体の対策への積極性に基づく相互作用により形成されていることがわかった。退耕還林・退牧還草政策の推進には村落や農家の自発的参加が必要となっており、経済的余裕のない農家は鎮や村落と比べ対策意欲が低いものの、補助金支給といった経済的インセンティブにより参加が促進されていた。逆に、助成のない禁牧政策については徹底困難な状況が見られた。また、全体的に村落の対策意欲は農家より高いものの、各村落の経済状態には砂漠化やインフラ整備の状況と空間的対応が見られ、それらの状態が比較的良い村落の対策意欲は低い傾向にあった。そのため、現在の政策実施プロセスでは生態的・社会経済的状態の悪い場所で対策が重点化される傾向にある一方、本来的に生態環境が脆弱な本地域において不可欠となる原因療法的観点が欠如しているという問題が考えられた。
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Environmental Geology (印刷中, 掲載確定)