本研究の目的は、砂漠化著しい中国ホルチン砂地における、持続的な生態的・社会経済的目的に応える統合型土地利用モデルの提案である。本年度は、これまで行ってきたフィールドでの実証研究と連携する形で、統合型土地利用モデルの概念モデルを構築し、国際会議で発表を行った。さらに、関連研究で先進的な成果をあげているホーエンハイム大学(ドイツ)とスイス連邦工科大学を訪問して研究交流を図るとともに、モデルの実装に向けた研究協力体制を整えた。 本モデルはマルチエージェントシステムを利用した土地利用モデルであり、主にlandscape dynamics moduleとhousehold decision-making moduleという二つのモジュールから構成される。Landscape dynamics moduleには、すでに構築した土地の劣化および回復に関する経験モデルを組み込む。さらに、開発した画像解析手法を用いて、上記経験モデルのスケールに対応する詳細なランドスケープデータを作成し本モジュールに組み込むことで、モデルの空間シミュレーションを可能にする。Household decision-making moduleには、現在実施中の空間明示的な農家調査により得られる農家の生計、土地使用権、政策への関与などのデータから、農家の土地利用に関する意思決定モデルを構築し組み込む。これら二つのモジュールを土地使用権などにもとづき空間的に連結し、農家行動と土地動態の関係性をモデリングする。最終的に、モデルユーザーが様々な外部パラメータを設定することで、政策などの外部要因による上記二つのモジュールおよびそれらの関係性への影響がシミュレーション(シナリオ分析)される。本研究の中でも、これまでに明らかにした当該地域の政策実施プロセスをもとにシナリオを設定し、政策影響評価を行う。 このような人間-環境系における統合型土地利用モデルの構築は、Land chahge scienceにおける最先端領域であり、今後の砂漠化防治に不可欠といわれる統合的土地利用管理にも直結する成果となる。今後は上記海外研究機関の協力を得ながらモデルの実装を行う予定である。
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