「客観的な確率とは何か」という観点から、いくつかの問題点を洗い直した。まず、エヴェレットの立場(多世界解釈に発展する前のオリジナルのもの)を「客観的確率」のメタ解釈の一つとして考え、エヴェレット流の解釈から如何にしてボルンの規則が導かれるのか、その数学的側面および概念的側面に取り組んだ。ベクトルのノルムに予め意味を与えなければ、導かれるボルンの規則にも意味が与えられない。このことと数学上の導出の問題とを混同すべきではない、という点を論じた。また、エヴェレットの解釈と傾向性解釈との中間点に、新たな量子力学解釈を見出した。「同等に実在的(equally realistic)」ではなく「同等に可能的(equally probabilistic)」に(そして同時に)存在すると考える。可能性の一つが実現されるように見えるのは、我々意識存在の問題であり、複数の事象の在り方の問題ではない。本年度はこの解釈について考察したが十分でなく、次年度も引き続いて考察対象に挙げられる。他に、ポパーの反証主義と量子力学の関係を論じた。反証主義の例として挙げられるものは常にアインシュタインの相対性理論であり量子力学ではなかった。反証不可能な非科学的議論であった量子力学の概念的議論が、ベルの定理によって経験科学となっていく模様が、反証主義のフィルターを通すことでわかりやすく整理される。また、Nagasawaの理論と概念的問題の関係を整理し直し、初期条件の変化がその後の遷移確率に影響を与え干渉を生じさせることについて、古典力学と対応付けながら正当化した。また、非局所性と関連付けることで、今後の課題を明確化した。いずれに関しても、論文発表準備中(投稿予定、査読待ち等)である。
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