ショウジョウバエの加齢性記憶障害特異的変異体であるDCO/+変異体では、PKA活性が抑制されている。そこで加齢性記憶障害に関連するPKAの下流因子を見つけるため、野生型とDCO/+変異体で加齢によるタンパク動態を比較した。その結果、加齢に伴って、野生型ではリン酸化タンパクに特徴的なスポットシフトが亢進されるが、DCO/+変異体では若齢体、老齢体いずれでもスポットシフトが抑制されているタンパクを発見した。そこで質量分析によって一連のスポットタンパクを同定したところ、このタンパクがピルビン酸カルボキシラーゼ(Pyc)であることがわかった。若齢体と老齢体でPyc活性を測定したところ、老齢体ではPyc活性が亢進しており、DCO/+変異体ではこれが抑制されていた。Pycを過剰発現すると若齢体でも記憶障害が観察され、さらにDCO/+変異体においても加齢性記憶障害の回復が見られた。これらのことから、老化に伴うPKA活性依存的なPycの活性亢進が加齢性記憶障害の原因であることが示唆された。Pycはグリアに存在するタンパクであり、Pycを介したグリアのTCAサイクルが記憶学習過程とどのように連動しているのかについては未知であり、加齢性記憶障害の研究における新たな経路の発見につながる可能性がある。
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