博士課程在籍2年目に目標であった蛍光発生型酸化的カップリング反応を誘起する非天然アミノ酸を用いた蛍光性環化ペプチドの翻訳合成を達成し、平成21年度にはその成果をChemBioChem誌に発表、本研究課題を予定より1年早く終了した。また、本研究課題と並行して「N-メチルアミノ酸含有環化ペプチドライブラリーを用いた子宮頸癌治療薬の探索」の研究テーマを開始した。 子宮頸癌の原因の一つとして、ヒトパピローマウイルス由来のタンパク質E6およびヒト由来のユビキチンリガーゼE6APが相互作用することによって、p53の分解が亢進し、細胞が癌化する経路が知られている。したがって、このタンパク質間相互作用を阻害することで、p53が正常にアポトーシスを誘導し、子宮頸癌を治療できると考えられている。そこで、E6およびE6APを標的タンパク質として、子宮頸癌治療薬に結びつく薬剤性ペプチドの探索を行っている。 ライブラリーのデザインとして、ペプチドの膜透過性および細胞内安定性を改善するため、N-メチルアミノ酸およびD-アミノ酸を含んだ大環状ペプチドライブラリーの構築を目指し、本年度半ばには、当該ライブラリーを構築することに成功した。そして、目的ペプチドのスクリーニングは、無細胞翻訳系で合成したペプチドと、それをコードする遺伝子を結びつける方法の一つであるmRNAディスプレイ法を用いた。この手法により、10の13乗種の高い多様性を持つ特殊ペプチドライブラリーを調製し、その中から、標的に結合するペプチドをコードしたDNAを選択的に増幅できる。その結果、E6APのユビキチンリガーゼドメインHECTに選択的に結合するペプチドを選別し、そのペプチドがN-メチルアミノ酸およびD-アミノ酸、環状構造を含むことを同定した。また表面プラズモン共鳴法により、このペプチドが標的に1nM以下の解離定数で強く結合することを明らかにした。現在、当該ペプチドのE6AP阻害活性の評価を行っている。
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