聴覚順応における内耳外有毛細胞のIP_3シグナルの生理機能を解明することが本研究の目的である。本研究の遂行には、外有毛細胞にIP_3シグナルを阻害する分子(IP_35-ホスファターゼ)の遺伝子導入が必要不可欠である。初年度は培養内耳組織の外有毛細胞への遺伝子導入に成功した。今年度はin vivo電気穿孔法を用いて生体内でIP_3シグナルを阻害する方法を開発した。内耳のような深部に存在する組織への遺伝子導入を達成するには、深部ヘアクセスするための難易度の高い手術の習得が必須である。そこで前段階として、末梢の深部に存在するが、比較的アクセスしやすい坐骨神経への遺伝子導入を試みた。in vivo電気穿孔法を用いて坐骨神経のミエリン形成細胞(シュワン細胞)への高選択的な遺伝子導入を達成した。本手法を用いて、新生児ラット(生後3日目)のシュワン細胞にIP_35-ホスファターゼを導入しIP_3シグナルをin vivoにおいて阻害した。生後14日目に組織を固定し、ミエリンの形態を観察した。IP_3シグナルを阻害したミエリンでは、コントロール群と比較してミエリン長が有意に短かった。すなわちIP_3シグナルがミエリン形成に重要であることが明らかとなった。このようにin vivo電気穿孔法により生体内の組織にIP_35-ホスファターゼを導入することで、in vivoにおけるIP_3シグナルの新しい機能を解明するに至った。本手法は、標的の組織を露出させることができれば、坐骨神経以外の様々な組織に応用可能である。本手法による遺伝子発現は、非分裂細胞においては長期に持続することを確認しており、外有毛細胞のような非分裂細胞に適用できると考えられる。今後は内耳ヘアクセスするための手術法を早期に確立し、in vivo外有毛細胞への遺伝子導入を目指す。
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