昨年度中は、主として二つのテーマに取り組んだ。一つは、環境光源を考慮した屋内シーンの効率的なレンダリング手法であり、もう一つは逆時間シミュレーションによる雲のアニメーションである。これらについて順次説明する。 一般的な屋内シーンには、窓のように屋外からの光を屋内に通す部分が存在する。天空光や太陽光のように、屋外の光は時刻により変化し、屋内の照度分布に大きく影響を与えため、屋内シーンの照明計算において重要な役割を果たす。また、屋内シーンのレンダリングでは、直接光だけでなく、間接光まで考慮することが重要である。 窓を通過した光においては、直接光と間接光の伝達関数の方向分布は大きく異なる。前者は高周波成分を多く含むのに対し、後者は低周波成分をより多く含む。我々は、このような間接光と直接光の特性の違いに着目し、球面調和関数を用いて低周波な間接光成分を表現し、Waveletを用いて高周波な直接光成分を表現した。この表現方法により、精度をほとんど犠牲にすることなく、高速な計算を行うことができる。提案法により、天空光の変更・回転や、視点の変更、窓のガラスの材質の変更をリアルタイムに実現することができた。 天空光によって室内が照らされるシーンでは、窓を通して空が見えるため、その変化をシミュレーションすることもまた重要となる。空を構成する要素として雲は重要であり、ユーザーが望むような雲の分布を得られるシミュレーションの開発は重要となる。我々は、逆時間シミュレーションの利用によってこのようなシミュレーションの実現を試みた。まず、目的の状態からスタートして、時刻を遡ってシミュレーションした結果を計算しておく。次に、その状態から順時間にシミュレーションを行って、目的の状態を再現する。我々の基礎的な実験では、簡単な形状や短い時間ならば、目的状態を実現するようなシミュレーションを行うことができた。
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