高等植物にとって、ホウ素(B)は必須元素であると同時に、過剰量では害を及ぼす。そのため、植物内のホウ素量は厳密に制御されなければならない。シロイヌナズナホウ酸トランスポーターBOR1はホウ素欠乏条件では、根の様々な細胞で中心柱側の細胞膜に局在し、ホウ素の導管への濃縮に寄与している。一方で、ホウ素十分条件下では、BOR1はエンドサイトーシスを介して液胞で分解される。この細胞レベルでのホウ素濃度依存的なBOR1の分解が、土壌からのホウ素の取り込みを調節し、植物体内のホウ素量の維持に寄与していると考えられる。この分解制御の分子機構を通し、外部環境の変化に対する植物の応答機構の一端を解明できる事を期待している。本年度は、特にBOR1と直接的に相互作用する因子の同定を目指した。BOR1一次構造上に分解制御に重要な輸送モチーフが見出されている。この輸送モチーフとの相互作用によってBOR1分解制御を担う候補因子として、細胞内小胞輸送機構に働くAP複合体に着目し、逆遺伝学的アプローチにより機能の解析を行った。その結果、シロイヌナズナのゲノムに見出された4つのβサブユニットについて、いずれの欠損株でもBOR1の分解に異常を見出せなかった。AP複合体は輸送もチーフとともに多様な生物種間で広く保存された構造である。しかしながら、シロイヌナズナにて明らかな表現型が得られなかった事実は非常に興味深い。今後、他の生物種には見られない各サブユニット間の冗長性の可能性を思慮して研究を進めている。同時に、多種との相似性に縛られず、因子の同定を行うためにBOR1の分解に異常を示す新規変異体の単離・解析を励行している。
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