研究概要 |
本研究課題では、地球型惑星の大気および表層環境について、その形成と初期進化を理論的手法によって議論する。今年度は、惑星大気の初期進化において最も重要な物理過程であるハイドロダイナミックエスケープについて、(1)計算コードを開発し、(2)金星大気の問題に適用した。 (1)大気一成分の場合の計算コードを、大気成分が複数種でかつ吸収・放射を考慮した場合に拡張した。各成分間の衝突による運動量交換の効果と、各成分間の熱拡散による温度変化の効果を加えた。また、大気中の分子による光の吸収・放射については、COの回転スペクトル線による冷却に注目し、その効果を計算コードに組み込んだ。ここで作成された計算コードは汎用性が高い。今後はこの計算コードを用いることで、惑星の大気散逸に関する問題を独占的に解くことができると期待される。 (2)まず初期金星からの水の散逸に関する計算を行った。水素と酸素の2成分でのハイドロダイナミックエスケープを解き、酸素の散逸が可能であるかどうかを議論した。計算の結果、過去に金星表層に存在したと考えられている水を全て散逸するための条件を、定量的に示すことができた。さらに、初期金星大気の希ガス分別過程に関する計算を行った。特にNeとArの存在度に関する問題を解決するために、大気温度を調節し適切な希ガス分別を実現する可能性のあるCO冷却に注目した。Ne,Ar,COを含んだ水素大気の散逸を計算した結果、CO冷却の効果を組み込んだとしても、現在の金星の希ガス存在度を、ハイドロダイナミックエスケープによる大気進化によって説明することは難しいことが示された。 以上の計算により、初期金星大気の散逸・進化について初めて定量的な結果が得られた。これらの結果は、金星大気の形成・進化過程に関して重要な示唆を与えており、その成果は論文および複数の学会発表によって発表した。
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