研究概要 |
本研究の目的は,ヒトーマウス間のゲノムシンテニー情報をもちいて新規の非翻訳型RNAを予測し,機能解析候補の絞り込みをおこなうための解析パイプラインを提示することである.非翻訳型RNAには,(1)遺伝子間領域から発現する遺伝子間型,(2)特定の遺伝子座の逆鎖から転写されるアンチセンス型が存在する.いずれもゲノムプロジェクトによって4000-5000種類程度予測されているが,その機能が明らかになった例は少ない.本課題では先年度までに,ヒト-マウス間のゲノムシンテニー情報に基づいたマイクロアレイによって,新規のアンチセンス型RNAの同定をおこなった.今年度は同様の手法を404個の機能解析の進んでいる癌関連遺伝子に適用し,乳がんモデルマウス(GRS/Aマウス;mouse mammary tumor virusによって乳がんが誘発されるモデルマウス)をもちいて,正常部位と腫瘍部位の間で発現の変化するアンチセンス型RNAの抽出をおこなった.その結果,95個の遺伝子について,アンチセンス側の発現変化を検出することができ,そのうち19遺伝子については,アンチセンス発現の変化と共にセンスの発現(通常のmRNAとしての発現)にも変化が見られた.また13遺伝子では,アンチセンス発現とセンス発現の逆相関(腫瘍部位でアンチセンス発現が上昇し,センス発現が抑制される,またはその逆)がみられた.個別の機能解析によって,腫瘍部位におけるアンチセンスの発現がセンス発現を抑制している例も知られており,今回抽出された遺伝子のなかには機能性アンチセンスRNAが含まれる可能性がある.次年度は,(1)特定の遺伝子座にフォーカスしたアンチセンスRNAの解析,および(2)遺伝子間型の非翻訳RNAをヒストン修飾や発現配列のデータから予測していく.
|