生体膜リン脂質のリモデリングに関与すると考えられる酵素、LPCAT1の解析を行っている。この酵素は呼吸に必須な界面活性物質である肺サーファクタントの産生に関与すると考えられる。この酵素の解析が進むことにより、新生児の呼吸を可能にするメカニズムの解明につながり、早産児が呼吸不全で死亡してしまう新生児呼吸促迫症候群が起きる原因の理解につながると思われる。 LPCAT1がどのようなリン脂質を産生しうるかを調べるため、質量分析計を用いて酵素活性を測定する方法を開発した。この方法を用いることで、放射ラベルされた基質を必要とせず、生体に存在すると思われるほとんどの基質を用いて酵素活性を測定することが可能となった。この方法を用いた結果、LPCAT1は肺サーファクタントの主成分であるジパルミトイルホスファチジルコリンを産生する活性が強いことがわかった。 また、LPCAT1の肺での局在を調べるために、抗LPCAT1抗体を精製した。さらに、肺を簡便に抗体で染色し、分子の局在を可視化する方法を確立した。この方法は、2光子励起顕微鏡を用いて肺のホールマウント免疫染色ブロックをイメージングするものである。この方法を用いて、LPCAT1が肺サーファクタントの産生細胞である肺胞上皮2型細胞に局在することを見出した。 これらの知見は、LPCAT1が肺サーファクタント脂質の産生に重要な機能を果たし得ることを示唆する結果である。LPCAT1が新生児期に発現誘導されるという過去の知見と併せて考えると、この酵素が新生児呼吸促迫症候群から生体を守る機能を果たすと示唆される。今後、LPCAT1を欠損したマウスの解析を行うことで、生体レベルで肺サーファクタント脂質がどのような場面で重要な機能を果たすのかが解明されると思われる。
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