正常な呼吸に必須な界面活性物質(肺サーファクタント)の産生に関わると考えられている酵素、リゾホスファチジルコリンアシル基転移酵素1(LPCAT1)の機能解析を行っている。LPCAT1の生体における機能を調べるためにLPCAT1欠損マウスを作成した。 LPCAT1欠損マウスは肺や脾臓におけるホスファチジルコリン(PC)の脂肪酸組成に変化が見られた。LPCAT1欠損マウスの肺サーファクタントの脂質組成を、質量分析計を用いて調べた結果、LPCAT1は肺サーファクタントの総量ではなく、そこに含まれるPCの脂肪酸組成の決定に重要であることがわかった。 LPCAT1欠損マウスは呼吸が可能であり、ベンチレーターを用いて換気している条件下で肺の圧力容積曲線を調べても、得られるパラメーターは野生型マウスと同様であった。よって、LPCAT1は生きるのに最低限の呼吸には必須ではないことがわかった。 肺の病態時におけるLPCAT1の機能を知るために、急性肺障害モデルに対するLPCAT1欠損マウスの感受性を調べた。その結果、LPCAT1欠損マウスは野生型マウスと比較して致死率の上昇、肺エラスタンス上昇(肺の硬化)、酸素飽和度の低下が見られた。また、炎症性サイトカインであるIL-6のmRNA量の上昇が見られた。 これらの結果は、LPCAT1のもたらす正常な脂質組成をもった肺サーファクタントが急性肺障害に対して保護的に働くことを示唆する。今後、LPCAT1欠損マウスで急性肺傷害が促進されるメカニズムを追求することにより、正常な脂質がなぜ必要なのかが明らかになると考えられ、まだ必然性のわかっていない「脂質の多様性」の意義解明に部分的に役立つと思われる。
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