研究概要 |
本研究の骨子は、音楽の情動的な意味の処理に関わる脳内メカニズムの解明を目的に、脳機能イメージング研究を実施することである。 採用第1年度は、2年度に実施する脳機能イメージング実験の準備として、1)基本情動を表現する音楽に関する予備的調査研究を行い、年度目標を予定通り達成した。また、計画を順調に遂行できたため、2年度計画の一部を前倒しして実施し、2つの脳機能イメージング研究、2-1)音楽の持つ情動表現の認知に関わる脳部位についての研究、および、2-2)音楽の持つ情動表現の評定と、音楽によって喚起された聴き手の内的な情動反応の評定にかかわる脳内機構に関する研究を実施した。下記に要点を記す。 1)調査ではVieillard et al.(2007)が、カナダ人学生を対象に、意図した情動をどの程度喚起できるかを検討した調査で用いられた56曲の音楽刺激を使用し、日本人学生に対し同様の調査をおこない、基本情動を表現する音楽に対する感受性の違いについて検討した。その結果、音楽における「恐ろしい(scary)」、「穏やかな(peaceful)」という情動表現、および、その音楽に対する感受性は、日本人学生とカナダ人学生の間で異なることが示唆された。 2-1)音楽と情動に関する脳機能イメージング研究の多くは、音楽によって喚起された聴き手の内的な情動反応に焦点をあてており、音楽の持つ情動表現を認知する脳内メカニズムに関してはほとんど研究がなされていない。本研究ではfMRIを用いて、音楽の持つ情動表現を認知する脳内メカニズムを検討した。結果として、高さ判断課題-コントロール課題では、下前頭回,Brodmann area(BA)45野に有意な活動があり、表現判断課題-コントロール課題では、下前頭回,BA45野、前頭眼野,BA8野、下前頭回,BA47野に有意な活動が見られた。そして表現判断課題-高さ判断課題では、左下前頭回,BA47野に有意な活動があった。この結果から、左BA47野は音楽が持つ情動表現の認知に関わると考えられた。 2-2)聴き手の内的な情動反応の評定にかかわる課題で、楔前部等が活動する一応の結果を得ているが、被験者人数が11名と少ないため、確定した結果は得られていない。2年度以降、被験者数を増やしてさらに研究を進める計画である。
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