本研究では、1売春婦管理史料の基礎的研究、2近世売買春政策と地域社会、3近世売買春構造とジェンダー、の3テーマを設定している。本年度は1・2に重点的に取り組み、3にも一定程度の進展をみた。 1.売春婦管理史料(奉公人請状・住替え証文・借金証文など)について、記載文言分析にとどまらない、文書の作成・授受・伝存の背景をふまえた史料学的分析の有効性を検証した。そして、その成果「飯盛下女奉公人請状の形態と機能-二本松藩領郡山宿・本宮宿の事例から-」(『古文書研究』65号)を公表した。また、大坂、信濃国軽井沢・追分、志摩国鳥羽などを対象に売春婦管理史料の調査収集をおこなった。 2.三都の遊廓に対し、諸藩など地域的動向もふまえて近世売買春の構造的特質を理解するという立場から、前年度おこなった口頭報告の要旨「近世売買春構造における洗濯女の位置-常陸国平潟を中心に-」(『歴史学研究会月報』581号)を公表したほか、「宿揚社会における売買春存立の一考察-奥州郡山宿の判元見届人・見廻り分析から-」を近世女性史研究会および民衆思想研究会において口頭報告した。いずれも討論内容をふまえて論文化し、学術雑誌への投稿作業を進めた。また、幕府諸藩の城下町における売買春の通時的・全国的な取締り傾向を把握するため、活字化されたものを中心に法令・仕置例などを悉皆的に収集して電子化したデータベースの構築に従事した。 3.売春業に関わる女性の実態に迫るため、長崎丸山町・寄合町の遣手に関する史料を調査収集した。
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