本研究の目的は、自然災害発生後の国際緊急援助活動において、複数事例を比較することでガバナンスに情報の流れが果たす役割を分析する、ことである。なお、「ガバナンス」とは、主体(アクター)が意図的・自発的に「情報の流れ」を構築し、国際緊急援助活動・災害復興を達成しようとする行動パターンである。 研究目的達成のため、本年度は国際緊急援助分野のアクターの全体像の解明、国際緊急援助の事例研究を予定していた。 以上の研究実施計画に基づき、本年度は(1)国際緊急援助分野のアクターが歴史的にどのように情報共有を行ってきたのか、及び(2)2007年11月にバングラデシュを襲ったサイクロン「シドル」により被害を受けたバングラデシュに対して行われた国際緊急援助の調査を行った。研究を遂行する中で、「クラスター・アプローチ」と呼ばれる制度で国際緊急援助分野のアクター間の情報の流れが公式化されていることが判明した。そこで、まずクラスター・アプローチ制度誕生以前はアクターがどのようにして情報共有を行ってきたのか、という視点でアクターの全体像の解明に努めた。次に、実際にクラスター・アプローチ制度が実際に適用されたバングラデシュの事例を調査した。その結果、サイクロン「シドル」襲来以前から存在するバングラデシュ特有のDERという防災部門の援助調整制度の存在と、グローバル(本部)レベルからカントリー(被災地)レベルへの情報提供が、援助活動を円滑化させていたという知見を得た。 以上の研究成果の意義・重要性として以下のようなことが考えられる。国際緊急援助分野でクラスター・アプローチ制度がどのようにして誕生し、そして実際にどのように運用されているのかを実証的に研究した例は見当たらなかった。そこで本年度の研究成果は既存の研究空白を埋めるという点で意義があると認められよう。
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