熱帯大西洋にはAtlantic Ninoと大西洋南北モードと呼ばれる二つの主要な気候変動モードが存在する。前者は太平洋のエルニーニョ/南方振動(ENSO)に類似しており、後者は赤道を横切る海表面水温偏差(SSTA)の南北勾配で特徴づけられる。これらの気候変動モードはブラジルやサハラ砂漠の降水量に大きく影響する。また、南北モードは北米やその周辺国に甚大な被害を及ぼすハリケーンの活動度にも関連することが報告されている。したがって、その変動メカニズムを詳細に理解し、予測精度を向上させることは大変重要な課題であり、最近10年で盛んに研究されてきた。しかし、その多くが海表面に注目したものであり、亜表層に存在する湧昇ドーム(湧昇により海洋の等温線がドーム状に押し上げられた現象)である南大西洋熱帯域のアンゴラドームや北大西洋熱帯域のギニアドームとの相互関係は従来無視されてきた。そこで本研究では、この2つのドームの経年変動と大西洋の気候変動モードとの関係を調べた。 渦解像海洋大循環モデルに現れたアンゴラドームの経年変動はAtlantic Ninoと深く関わっている。一方、ギニアドームの経年変動は大西洋南北モードと密接に関係している。これは海表面にのみ注目してきた南北モードの研究に対し海洋内部の変動の重要性を指摘した画期的な発見である。さらに、大気海洋結合モデルを解析することで、ギニアドームと大西洋南北モードの相互関係までも解明した。この成果は大西洋南北モードの理解のみならず、そのモデリングや予測精度向上に大きく貢献することが期待される。また最新の観測データであるPIRATAブイやARGOフロート等も精力的に解析し、そのメカニズムの妥当性も検証した。以上の成果は本研究員自身が国際誌や学術会議等で発表し、世界の気候変動研究に積極的に貢献した。
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