本研究の目的は、実験経済学のアプローチを用いて自然再生に関する人々の意思決定行動を分析することで、現実の自然再生評価に表明選好法を適用する際の示唆を得ることにある。本年度は、公共財への需要表明に関する意思決定の分析を行い仮想バイアスが生じる原因の解明と表明選好法による評価が妥当となる条件を明らかにした。さらに、自然再生評価を事例として、生態学的な情報提供が価値形成に与える影響を分析した。第一に、閾値付公共財供給ゲームにおける、経済的誘因を課した実際支払となんら誘因を課さない仮想支払、及び公共財の真の価値の関係を分析した。仮想支払と実際支払とで平均的には需要表明に関するパフォーマンスに差はないこと、両支払とも真の価値と正の比例関係をもつこと、実際支払による真の表明に性差は生じないが、仮想支払による真の表明には性差が生じることなどが示された。第二に、確率的住民投票の誘因両立性を分析した。住民投票の結果に基づいて実際の政策が実施される確率が正の場合、その公共プロジェクトの是非を巡る確率的住民投票における各被験者の投票は誘因両立性を満たすことを理論及び実験において示した。最終的な帰結として、費用は徴収されるがプロジェクトは実施されない、或いは、費用の徴収なしにプロジェクトが実施されるといった状況が生じうる場合、被験者のリスク態度が投票結果に影響を与え、真の価値分布の推定が困難になることが示された。第三に、生態学に基づいた情報の提供が、自然再生への支払意志額分布に与える影響を被験者間デザインを用いて分析した。情報の支払意志額平均値への影響のみならず、分散への影響を同時に捉えた。認知度が比較的高い水質や絶滅危惧種の保全再生対策に関しては、比較的弱い情報効果が観察された一方で、認知度の比較的低い生物多様性の保全再生対策に関しては、比較的強い情報効果が観察された。
|