臭素(Br)原子の関わる化学反応の理解は、今後のオゾン層回復予測に際して、オゾン層破壊物質であるハロンなどの臭素化合物の大気中の挙動を明らかにするために重要である。本研究では、最新のレーザー技術を用いた新しいBr原子の検出法の開発を行い、Br原子の化学反応過程の詳細を明らかにすることを目指している。 本研究で用いる真空紫外レーザー誘起蛍光法は、分子やラジカルの光吸収帯に共鳴するレーザー光を照射し、電子励起された分子やラジカルからの蛍光発光を光電子増倍管で観測する手法である。この方法には、波長可変で波長幅が狭く、時間幅の狭いレーザーパルスによって原子を選択的に検出することができるといった利点がある。本研究においては、158nm付近の真空紫外レーザー光を使ってBr原子の一光子励起LIF信号の検出するため、従来の多光子イオン化法や、二光子励起LIF法などに比べて高感度なBr原子の検出が可能となる。 これまでに、Br原子の4p^5 ^2P_<1/2>-4p^45s ^2P_<3/2>遷移に共鳴する157.48nmの真空紫外レーザー光を発生させ、スピン軌道励起状態Br^*(^2P_<1/2>)の一光子励起LIFを検出することに成功している。このBr^*(^2P_<1/2>)検出法を用いて、CO_2などの分子との衝突によって励起状態Br^*(^2P_<1/2>)から基底状態Br(^2P_<3/2>)へ緩和していく過程を調べた。様々な分子との衝突によるBr^*(^2P_<1/2>)の緩和速度を求め、それぞれの分子振動モードの最低振動数と緩和速度との間には相関関係を見出すことができた。 今後、基底状態Br(^2P_<3/2>)も同一システム内で検出できるよう実験手法の改良を行う。そして、臭素化合物の量子収率測定などの光分解過程の状態解析に関する実験を進める予定である。
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